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取引

男は願った。

「終わりのないものがほしい、不老不死になりたい」と。

 

尽きることのない金銭があれば最高だ。

しかし老いることのない体さえあれば、金銭を稼ぐことができる。享受する様々の悦楽。

 

そんな男のもとに、一人の男が現れた。

何も変わったところのない、普通のスーツ姿の中年男性。

「あなたの願い、叶えてさしあげましょう。」

「なんだ、お前は。酔っぱらいはどこか行け。」

「全くの素面ですよ。」

「ならばさては悪魔だな。願いを叶える代わりに魂を、とかぬかすんだろう?」

「いえ、悪魔というよりはただのちょっとした魔人です。魂はあなた様のもとに残りますが、あなたはその体を手放すことになります。その体は不老不死には耐えられませんから。」

「不老不死の体と交換、ということだな。」

「そのように捉えてもらって結構です。」

「魂と引き換えではないとすると、金か?」

「いえ、お代は頂戴いたしませんのでご安心を。」

「そんな、人を不老不死にするという夢物語を慈善事業でやっているのか」

「そうではありませんが…。何か交換で、というならば、あなたの要らなくなった体をいただきましょう。」

「そんなものでいいのか。不老不死になったら必要ないからな。」

「では、契約成立です。早速叶えましょう。目を閉じてください。1、2、3…」

 

男は後悔することになる。

確かに終わることも老いることもない世界だ。

 

だが、自分が円周率になった今、どうやって楽しみを見出すのか。

今は、一日でも早く円周率の計算が終わることを祈るばかりである。