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彗星のように突然に

ぼとり。

この音は、僕が食べかけの焼きぞばパンを落とした音だ。

全くもって勿体ないの一言に尽きるのだが、今はそんなことに構っていられなかった。

 

半年前、決死の告白をした(せざるをえなかった)相手が、目の前に立っている。

もう会えない、そう言って来世での約束をした僕の初恋の相手が現れた。

信じられない。転生ってそんなにそんなに早いの?僕の初恋は?もはやアンタ焼きそばパンの化身なんじゃないの?

今もほら、僕の落とした焼きぞばパン見つめてるし。拾うなよ。

 

「匿って!!!!焼きそばパンおごるから!!」

意味が分からない。意味分かるところが一つもない。逆にすごい。焼きそばパンで買収されると本気で考えてんのかコイツは。

しかたないし、もうどうしようもないので僕は、目の前の彼女をあの時のコメットだと信じることにした。誰かがコメットのふりをするメリットも思いつかない。何よりまた会えて高鳴っている心には逆らえなかった。

 

どうやら、本当に彼女はコメットという品種だったらしい。その中でも白い個体は価値が低いとされ、彼女の血統維持のために彼女は処分されそうなのだという。

寿命はどうなっているんだ、と聞けば、金魚としての質と引き換えだそうだ。それでも人間としての長生きは出来ないらしい。いかんせん純粋な金魚ではなく半分妖怪半分突然変異の世界なので、人間には理解しがたい。

ざっくり言うならば、お家騒動と血統の保存が見事にこじれてしまっているという状況だ。

 

そんな話を喫茶店で、クリームソーダをつつきながら聞いている。この緑の液体より現実離れしている。

「でもさ、そんなに血統を維持したい側はさ、所詮金魚なんじゃないの?金魚の質と引き換えに、人間の姿を借りるんだから。」

ぼくは、気が付いた疑問を素直に口にする。

「追うのは、任務遂行後にその世界で地位を約束された、私みたいな人型金魚だよ。買収ってやつ?そこに絡む愛憎劇。」

「それ厄介じゃねぇか。」

スプーンからアイスが落ちる。ぼとり。まただ。

「…それに、」僕は意を決して言う。

「茶化してるけど、お前に懸想して嫁にしようと画策してるやつがいるってことだろ。」

「あー…バレた?」

目の前の彼女は、見たことない表情をしていた。申し訳なさそうな、困っているような、ためらっているような。

こんな表情するのか、なんてこの状況にそぐわないことを思う。

相変わらず瞳は澄んでいて、髪が透き通るようにきれいだった。

何より僕を覚えてて、助けを求めてきた。

「あの時君との思い出と一緒に死ねるなら本望だって、そう思ってたのに、死にぞこなって君に助けを求めてるなんて馬鹿だよね。だから一人でどうにかする」

「どうにかって…」

「嫁ぐよ、向こうで」

はぁ?何勝手を言ってるんだ。お前が声を掛けてきた時、どれほど嬉しかったと思ってるんだ。

「半魚人には嫁がせない。追手の半魚人もどうにかする。焼きそばパンこっちで死ぬまで食わしてやる。これ以上勝手なこと言ってっとまじですっぽんの餌にしてやるからな。」

 

とんだ初恋の敗者復活戦だ。やれやれ。クリームソーダの残りを勢いよくすする。

涙がでてる?そりゃ炭酸のせいさ。お前が帰ってきたから、なんて、そんなことないからな。

 

 

 

 

 

書きたい書きたいと思っていた、コメットの続編。いい終着点が見つからずに、結局これも続編が必要になってしまった…

くぅっ…文才がほしい…