創作

夕暮れの魔物

「もし、そこの人」 と肩をたたかれたら、決して振り向いてはいけない。 俺は振り向いてしまった。 落とし物だろうか、キャッチセールスの類いだったら無視すればいい、そう思って振り向いた。 声をかけてきた奴は服こそ違えど俺とよく似た男だった。 きちん…

幸せな話

親友のカナから、幸せな報告を受けた。 なんと彼氏からプロポーズを受けたんだって。 ホテルで夜景を見てたら、彼が突然手でカナを目隠し。 両まぶたに感じる彼の両手の指先に緊張した、なんてさ。初々しいよね。 で、カナの左手の薬指に、そっと指輪がはめ…

交差点でサヨナラ

「こんなもんだろうか……」 髪のセットを終えて、男は呟く。 今日は付き合い始めたばかりの彼女とデートだ。 女性に関してあまり知らないので、本屋で雑誌を買い、服をコーディネートし、髪を整えている。 ここまででもかなりハードルが高い。 ファッション雑…

万華鏡

覗けばそこには極彩色。くるりくるりと色を変え、同じ模様が現れることはないと言われている。 大切なものはすぐ壊れる。 あっけないほど。 初めて買ってもらったガラス細工のネコも落として割れてしまった。 母にひどく叱られた。 あんなにきれいなシャボン…

隙間

ついに訪れた、人間一人一人にマイクロと呼ぶにも小さすぎるようなチップが埋め込まれる時代が。 そのチップは、各国で管理され、各国のサーバーは某国のサーバーで一元管理されている。 このチップを管理システムが認証し、人間であることを承認する。 つま…

Garden

私は今、かわいらしい女性と向かい合っている。 彼女の柔らかく白い頬は桃色に上気し、眼はまっすぐに私を見つめている。 最高のシチュエーションじゃないか。 ただ一つ、彼女が私に銃を突き付けてることを除けば。 さかのぼること数十分前、私は屋敷で彼女…

取引

男は願った。 「終わりのないものがほしい、不老不死になりたい」と。 尽きることのない金銭があれば最高だ。 しかし老いることのない体さえあれば、金銭を稼ぐことができる。享受する様々の悦楽。 そんな男のもとに、一人の男が現れた。 何も変わったところ…

ひとつまみ

ふむ、こんな味だったか。 私は目の前の寸胴鍋に向かって呟いた。 中身はいつものスープ。好物だからよく作る。 だから手順に狂いなどないし、材料もいつもと変わらない。強いていうなら少し具材がいつも以上に私好みだが。 二人分作るのが習慣になっている…

彗星のように突然に

ぼとり。 この音は、僕が食べかけの焼きそばパンを落とした音だ。 全くもって勿体ないの一言に尽きるのだが、今はそんなことに構っていられなかった。 半年前、決死の告白をした(せざるをえなかった)相手が、目の前に立っている。 もう会えない、そう言って…

習作

君のことが、嫌いだ。 今、私の足元の地面には、人間が埋まっている。 埋めた、という方が正しい。 私は、ある人間に恋をしている。埋まっているのはその友人だ。 彼はよく私に会いに来てくれた。なかなか彼と会えなくても、遠くから彼の姿を見つめるだけで…

風鈴を鳴らして

蝉が鳴いている。風鈴も音を立てないそれはそれは暑い夏の日、アイツは帰ってきた。 「ヨウ、いる?」 玄関先から顔を覗かせるアイツ、シュウはTシャツにハーフパンツ、パーカーといういつもの出で立ちだ。そろそろインターホンという文明の利器を覚えてもら…

コメット

さよならって言葉、嫌いなんだ。 彼女は濁りのない瞳で、そう言った。知り合って間もない日のことだったから印象に残っている。焼きそばパンを頬張りながら、確かに彼女はそう言った。 彼女は大教室で突然声をかけてきた。確か映画史概論の授業だった。 「そ…